Dr.輝夫コラム
顎関節症の概説
顎関節症とはどのような疾患か
顎関節症というと特殊な疾患のように思われがちですが、実際のところは膝や肩の関節と同じような関節疾患です。ただ、関節の機能と形態が人体の他の関節とは異なっていますので、病因とその症状が異なっています。そんな、普通の関節疾患と似ているようで異なった顎関節症について、長い臨床経験から解説させていただきたいと思います。
顎関節の特異的な形態と機能
顎関節は図で示すように耳の前で外耳孔の約 1 cm 前にあります。顎関節は一つの下顎の骨の左右両端にあって、頭蓋骨に繋がりながら動けるようにしている特殊な形態を持つ関節です。また、下顎の骨は回転したり、前後左右に動けなければならないので、非常に複雑な運動をするのですが、その複雑な動きがスムーズに行われるよう、左右の顎関節が調和を保つよう制御するという機能を司っています。
この図ではお口の開閉という単純な運動だけを示していますが、人は食べ物を食いちぎったり、すりつぶしたり、吸ったり吐いたり、お話したり、息をしたりと色々な機能をするたびにそれぞれ異なった筋肉を駆使して多種多様な動きができるようになっています。そのために、下顎には13種類の筋肉が左右一対に付着していて、無意識のうちに協調してそれぞれの働きに応じて下顎を動かす仕組みになっています。
手足の関節も曲げたり伸ばしたり、回転したりしますが、左右の顎関節を同時に動かさなければならないので、もっと複雑で微妙な調節機構が必要になっています。
こんな動きを通常は瞬時に無意識に反射的にできているのは驚異的です。
顎関節症の症状
顎関節や周囲の筋肉に痛みを感じて、噛むのがおっくうになったり、口が開かなくなる疾患です。顎を動かすときに音がなるようになることもあります。
歯の噛み合わせと顎関節症
以前は顎関節症というとまずは噛み合わせに問題があると言われ、歯を削ったり、歯にかぶせ物をしたりしたこともありましたが、今はやらなくなりました。その理由は、噛み合わせも顎関節症の一つの誘因にはなりますが、それだけでは顎関節症を起こすことはないことがわかってきたからです。
噛み合わせが、客観的に正常な方でも顎関節症になる患者さんもいらっしゃいますし、噛み合わせが悪くてもならない方も多くおられます。それ差は何かと申しますと、顎関節に障害をもたらすほどの力が掛かっているかどうかであるとされています。噛み合わせが良くても、くいしばる癖がある方の顎関節には相当の力が掛かっていますし、噛み合わせが悪くてもかみしめることがなければ、顎関節は正常であることができるからです。
とはいうものの、やはり噛み合わせが悪いと食事の時など上下の歯を接触する際に、どうしても無理な力が顎関節にかかりやすいので、噛み合わせが悪いと顎関節症になりやすくなりますし、統計的にもそのような数字が出ています。
ストレスと顎関節症
上の実験結果のグラフはストレスがある状態だと睡眠時の歯ぎしりが強くなることを示しています。
人は緊張しますと筋肉がこわばります。リラックスしている人の顔は穏やかみ見えますし、緊張しているとこわばって見えます。これは表情筋が緊張しているからです。顎の周囲の筋肉も表情筋の一部ですので、ストレスを感じているときは顎を動かす筋肉も緊張します。それにより顎関節にも負荷がかかります。また、睡眠時にも、ストレスがかかっているときには歯ぎしりの頻度も強さも増すようなどで、これも顎関節症の誘因になります。
最近、局所的な原因が確認できないのに、そこに痛みを感じる患者さんが多くいるとの科学的な論文を多く見受けられるようになりました。そんな痛みも、ストレスが一因と言われています。
癖と顎関節症
知らず知らずにやっている悪い癖でも顎関節症を引き起こすことがあります。これは前述のストレスとも関係しますが、そういうこととは関係なく、家事や、パソコンに向かって仕事をしている時など食いしばっている人を多くいらっしゃいます。また、頬杖を突く癖があったり、枕を片側の顎に当てて横向きに寝ることで顎関節症になることもあるので注意してください。
顎関節症の治療
顎関節症の治療は、一般の関節症と同じように『安静にして治るのを待つ』ということが大原則となります。しかしながら、日常の生活で顎関節を動かさないことは、食事もできないし、お話しすることもできなくなりますので不可能です。そこでなるべく顎関節に負担をかけないようにするために、気がついたら、上下の歯を接触させないように努めてください。また、ストレスも問題ですので、あまり考え込まないよう、心の安静を心がけることも大切です。
噛み合わせ状態の確認や、夜間にマウスピースを装着する必要があることもありますので、担当の歯科医師に相談してください。
それぞれの症状に応じた各種のマウスピースを掲示します。
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